日本の企業年金基金が資産運用先を模索している。足元で国内金利は上昇してきたものの、債券投資は日銀の政策修正による金利上昇(価格下落)リスクが大きい。外債は為替ヘッジコストが高すぎる。「運用難」の中、一部の基金は、オルタナティブやクレジットなど非伝統的資産に活路を見出そうとしている。
2023年11月14日に東京で開催された第17回グローバル・フィデューシャリー・シンポジウムのパネルディスカッションで明らかになった。
債券投資はかつて、日本の企業年金基金の資産運用で中心的な役割を担っていた。しかし、新型コロナウイルス終息後、各国の中央銀行は、インフレ抑制のため金融引き締め政策を実施。金利は上昇し債券投資の運用収益率は大幅に低下した。
株式との相関性も高まった。従来は、逆相関性があった株式のボラティリティを債券投資でコントロールしていたが、それも難しくなった。現在でも債券は総資産の30%以上を占めており、重要資産の1つではあるものの、国内外の債券と株式に多くを投資してきた伝統的な戦略は通用しなくなっている。
<オルタナティブへのシフト>
一部の企業年金は、高い為替ヘッジコストがのしかかる外債を減らし、資金をオルタナティブ資産に分散することを進めている。
運用資産残高5386億円の大和ハウス工業企業年金基金は、債券への配分を削減する一方、オルタナティブへの配分を増加させている。同企業年金の山根透運用執行理事は「債券投資にかつてのような、過大な期待をしない方がいいのではないか」と述べた。
ただ、山根氏は「我々の債券のアロケーションは、国内外合わせて5.5%に過ぎない。その意味では、誰から見ても中核資産とはいえないが不要とは考えていない」と語る。債券は分散ポートフォリオを構成する「重要なパーツの1つ」という。同年金は、伝統的な債券投資5.5%に加え、オルタナティブのポートフォリオの中に債券系のプロダクトも含まれており、それらを含めると全体で約11%が債券系の資産としている。
<順イールドになれば米債投資も>
西日本を拠点とする企業年金基金の運用担当者は、米国債利回りが上昇するなか、米国債投資を再開する合理性は整ってきたとの認識を示した。ただ足元では、為替ヘッジコストの高止まりで、本格的な投資を開始するのは困難なことから、米国の短期MMF(マネー・マーケット・ファンド)を保有しながら、米国の金利動向を見守っているという。
同担当者は、ある程度の為替ヘッジを行って本格的に米債に投資をするためには、米国の長期金利が短期金利を上回る順イールドになる必要があると指摘する。「2024年に、順イールドになる局面があれば、米長期債の投資を開始する方針だ」という。
世界的な金利上昇と為替ヘッジコスト上昇は、企業年金基金の運用担当者の頭を悩ませている。こうした中、ヘッジ外債への投資を控え、日銀の金融政策や円金利の状況を見ながら、一部資産を国内債券にシフトさせる動きもある。
日本経済新聞企業年金基金の高橋岳二理事長は、今秋、国内外の株式で得た約20億円の利益を国内債券に配分したことを明らかにした。高橋氏は、日銀が超金融緩和政策を修正すれば、国内金利がいつ落ち着くか不透明になり、国内債券投資はキャピタル・ロスを被る可能性は高いとしたうえで、「可能な限り利回りを確保できるよう国内クレジットで、しかもデュレーションを短めにしているファンドに投資した」という。